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『風になった少年』 その2
2007 / 11 / 10 ( Sat )
『風になった少年』 その1




哲が転校してきて一週間が経ちました。
相変わらず、勇太たちはいじわるを仕掛けます。
勇太は、都会的で頭のいい哲をどうも気に食わないようです。
 
淳平がそうじ当番の日のこと。哲は一人運動場で待っていました。
「やあい! もやしっ子。風に吹かれて倒れるやんけ~」
「かばん重そうだから、持ってやる!」
 そう言うや、健は哲のかばんをひったくって、良介に投げました。
「やーい! くやしかったら、取りに来い」
哲が良介のところに駆け寄ると、良介は勇太に投げました。
勇太は勝ち誇ったようにかばんを両手で空高く掲げています。
「返してほしかったら、ここまでおいで。オニさんこちら♪」
勇太たちは校門のほうに、どんどん走っていきました。


振り返ると、てっきり追いかけてくるはずの哲が見当たりません。
おや、と思って戻ると、運動場のはしっこの草むらで、
哲が寝っころがっているではありませんか。
勇太たちは、空振りを食らって間が抜けた様子です。

 
三人はそうっと草むらに近寄りました。
哲は涼しい目をして、空の雲を追いかけています。
「なんや、こいつ。けったいなやつやなあ」
「かばん、いらんのんか?」
哲はさっきのことなど露知らず、という顔。

「きれいな空だなあ! この村に来てよかった…」
ひとり言のようにつぶやいています。
「ねえ、みんなも見てごらんよ。雲が楽しそうに追いかけっこしているように見えない?」
拍子抜けした勇太は、かばんを哲のそばに落としました。
「アホらし。帰ろ、帰ろ」
「こんな変なやつの相手しとられへんわ」
「カラスが鳴くから、か~えろ」
口々にそう言って、走って行ってしまいました。

 
そうじをしている間じゅう、淳平は哲のことが気になって仕方ありませんでした。
「だいじょうぶか? あいつら…」
淳平は、小さくなった三人の後姿をにらみつけながら、哲に近寄って来ました。
「うん。平気」
「そうか、それやったらええけど…。それにしても、なんか様子が変やったな」
哲が平然と落ち着いているのを見て、淳平はとりあえず安心しました。


「明日もあさっても、天気だって! よかったな」
空を見ながら、淳平は嬉しそうに言いました。
「うん。楽しみだね」
二人は仲良く並んで帰りました。
 

「ええ天気でよかったなあ」
「じいちゃんの日ごろの行いがええせいや」
「わあ、自分で言ってらあ」
楽しそうな会話が田んぼに響きわたっています。
 

おじいさんの田んぼでは、耕運機はもちろん田植え機も使いません。
“不耕起栽培”と言って、畑を耕さずに栽培する方法でやっているからです。
この栽培を続けることによって、土は機械で耕すよりも軟らかで、
崩れにくい理想的な状態になるそうです。
結果的に、病害虫に強い作物を作ることができます。何でも、根圏生物、
根圏微生物とやらの助けを借りることができ、必然的に無農薬になるからなのだそうです。

 
ちょっと難しい話になりましたが、要するに、環境に優しく、
健全な作物を生産することができる“科学的な農業”だと理解すればいいようです。


「昔は、効率だけを考えて、機械や農薬に頼っていたんやが。いろいろあってなあ。
いまじゃこのやり方がわしの性分に一番おうとる」
十年くらい前までは、おじいさんの田んぼでも、耕運機や田植え機を使っていました。
田植えも二~三人で、まる一日もかからないくらい簡単にできたそうです。
それに、農薬や除草剤を使い、面倒な雑草や害虫とも無縁でした。

 
ところが、あるとき、おじいさんとおばあさんはすっかり体調をくずしてしまったのです。
頭はボーッとするし、目はかすむ。何もやる気がしない、といった状態です。
病院に行っても原因はわかりませんでした。
おじいさんはいろいろ考えた挙句、ようやく気づきました。
「どうも農薬散布のあと、特に調子が悪くなるようや」と。

 
そのころ、村では都会から戻って、農業を始めた青年たちがいました。
機械も薬も使わずにです。
村のみんなはそんな青年たちのことをバカにしていましたが、
おじいさんは思うところあって、彼らのところに話を聞きにいきました。

 
そして、不耕起栽培のことを知りました。もともと素直な性格のおじいさんのこと。
早速彼らから学び、自分も実行することにしました。
それからは、すっかり健康を取り戻し、おまけに以前より増して、
おいしいお米や野菜が獲れるようになりました。
おじいさんの影響は大きく、今では村の三分の一の農家がこの方法でやるほどまでになりました。



「冷やっこくて気持ちええなあ!」
淳平のはしゃぐ声。
「へえ~、淳平。田植えが嫌いやったんやなかったんか?」
淳平の兄、雄一郎がからかいます。
雄一郎は高校三年生。町の高校へは家から通うのが大変なので、寮に入っています。
野球部に入っていて、休日も練習に忙しいのですが、
農繁期の時期の土日は必ず帰って来ます。

 
淳平のおじいさん、おばあさん。お父さん、お母さん。淳平のおじさん、
おばさん、いとこの二人。雄一郎、淳平、それに哲。総勢十一人。
子どもも貴重な働き手です。
広い広い田んぼの田植えが始まりました。

 
みんなは苗を片手に、もう片手に鎌を持っています。
不耕起の田んぼは少し堅めなので、植えるところを鎌で穴をあけるためです。
長靴で入ってもいいと言われたのですが、哲は淳平と同じように裸足になりました。
五本の指が自由に動き、大地をしっかりつかみます。
汗ばんだ額に五月の風が心地よく感じられます。


哲は夢中になって植えました。
「ああ、ぼくは自然の一部なんだ!」田んぼと一体になったような錯覚を起こしました。
淡々と手を動かしながら、想像しています。見事に実った黄金の稲穂。
その上を吹き渡る風。そんな風になった自分を。


「なにニヤニヤしてんのん?」
淳平は哲の働きぶりに感心しながら尋ねました。
「ねえ、淳平。人間の手って不思議だね。ホラ! もうこんなにたくさんの苗が…」
哲は背をのばして、おじいさんのように腰をトントンたたきました。
哲につられて、あっちでもこっちでも腰をトントンやっています。


「順調、順調! このへんで昼飯にしようや」
淳平のお父さんが、みんなに声をかけました。
「やあ、ずいぶん植わったなあ。気分爽快!」
雄一郎は田んぼを眺めてひとり悦に入っています。


「哲くん。疲れたやろ?」
そう言って、淳平のお母さんが冷たいお茶とおにぎりをすすめてくれました。
「おいしい!」
やっぱり、おじいさんのお米は最高!
「うまいなあ」
淳平のいとこの実も口をモゴモゴさせて、妹の由紀と頷きあっています。
彼らは今朝早く隣町から車でやってきたのでした。


「ここの漬けもんは、いつ食べても、うまいなあ」
淳平のおじさんが、白い歯を見せてニコニコ笑っています。
「ホント。心がほっこりしますね。この味は…」
淳平のおばさんは相づちをうちながら、言葉を続けました。
「初めのころは、田植えなんて…。正直言って、イヤだなあと思っていたんです。
でも、このお漬物につられて…(笑)。
それにみんなと働くのは、ほんとに楽しいんですよね。
この子たちも今では毎年、田植えを楽しみにしているほどです」

「私もよ」淳平のお母さんも、つい本音を出します。
「この家に嫁いでくるまでは、農業とは、からきし縁がなかったでしょ。
とっても不安だったの…」
「まさか良子さんも農家に嫁つぐことになるとは思わんかったやろ?
兄ちゃんらは熱烈な大恋愛やったから、しょうがないなあ。」
おじさんは、楽しそうに二人をからかっています。


「いやあ、良子さんには助かってんのよ」おばあさんが横から口をはさみました。
「こんな田舎に嫁にきてもらうだけでも、
じゅうぶん有難いことやのに、ほんまにようやってくれる」
実際、彼女たちの関係はうまくいっているようでした。
豊かな自然に囲まれて、ゆったりと過ごすこと。案外、それが秘訣かもしれません。

 
なごやかな雰囲気の中で、ゆっくり昼食をとり、午前中の疲れはすっかりとれたみたいです。
午後からは暑くて汗ばむほどでしたが、
さわやかな五月の風が訪れては励ましてくれました。
みんなの手によって、苗はていねいに植えられていきました。

 
次の日も快晴に恵まれて、田植えはいたって順調に完了しました。
「みんなのおかげで、今年も無事に田植えがでけた。ありがとう! 
さあ、大したもんはないけど、たんと召し上がってくれや」
ちらし寿司、てんぷら、ゆで豚、焼き魚、おひたし、サラダ、餅、果物…、
おいしそうなごちそうがズラリと並んでいます。


最近ではすっかり見かけなくなりましたが、“さなぶり”といって、
田植えが終わったあと、農家では、みんなにごちそうを振舞います。
この日は朝から家で、淳平のお母さんとおばあさんが、ごちそうを作っていました。
哲のお母さんも手伝っていたようです。

 
まず、おじいさんが、田んぼの畦に、お供え物をしました。
そして、田の神様に感謝と祈りを捧げています。
みんなも一緒に手を合わせました。
もちろん、哲も祈りました。

 
田んぼの横でみんなは円形になって、ごちそうをつつきました。
大人はうまそうにお酒を飲んでいます。
「父さんの米は日本一うまい!」
おじさんは日焼けとお酒で、顔を真っ赤にして言いました。
「あったりまえや! わしの米には“ビタミンI”がいっぱい含んどるからな」
おじいさんも顔を真っ赤にして、得意げです。
「ビタミンI?」
子どもたちはキョトンとして顔を見合わせました。
おじいさんはニンマリしています。
「ビタミン“愛”――ラブのことだよ」
雄一郎が解説。
「なあ~だ!」子どもたちは声を揃えて、また顔を見合わせました。
そうなんです。おじいさんの農作物にはビタミンIが豊富。だからおいしいのです。
食べた人は幸せな気持ちになります。

 
おじいさんは子どもたちにこんなことを話しました。
「これから、この田んぼには、いろんな生き物が生まれるぞ。
おたまじゃくし、貝エビ、豊年エビ、ミジンコ、赤虫、モノアラガイ…。
それに、農薬を撒かんかったら、クモやハチ、カエルにヘビ、
鳥たちが害虫を食べに来てくれる。実に、自然はうまくできとる」
食物連鎖の話に、哲はちょっぴり胸が痛みました。
しかし、それが大自然の厳しさなんだ、と思い直しました。


「ねえ、淳平。これからもちょくちょく田んぼに来て、生き物を観察しない?」
「賛成」
淳平にとって、今さら田んぼの虫など何も珍しくなかったのですが、哲と一緒なら、
やってみてもいいと思いました。

 
あたりはすっかり夕焼け色に染まっていました。
お酒を飲んだ大人たちに負けないくらい、子どもたちも赤い顔をしています。
楽しそうに騒ぐ声が山にこだまして、その日の夕暮れはいつまでもにぎやかでした。



まこりんさんの日記より



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