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『風になった少年』 その3
2007 / 11 / 17 ( Sat )
『風になった少年』 その1

『風になった少年』 その2


次の朝、淳平はいつもより寝坊してしまいました。
結構田植えがこたえたみたいです。
「哲だいじょうぶやろか…」
 
案の定、哲はまだ寝ていました。
「哲は熱があるので、今日は休むことにしたの」
哲のお母さんは、さみしそうに微笑みました。
「やっぱり、哲に田植えは無理やったんや」
淳平の心臓がドキリと音を立てました。心配していたことが起きた!
ぼくが止めれば、こんなことにならなかったのに…。
後悔の念が淳平を襲い、目にはうっすら涙さえ浮かびました。
「心配しないで。田植えのせいやないのよ。哲はときどき熱が出るの。
二~三日もすればまたすぐ良くなるわ」
哲のお母さんは、淳平の気持ちを察して、優しく言いました。


「淳平?」
奥から哲の声がしました。
「あがってもいいですか?」
そう言って、淳平は哲の部屋に一目散に駆け込みました。
「哲! だいじょうぶ?」
「うん、へっちゃら。 ちょっと熱が出ただけ。
でも…ちょっとがんばりすぎたかな?」
哲は「ヘヘヘ」と照れ笑いをしました。
「よかった!」
哲の笑顔につられて、淳平も思わず笑ってしまいました。

 
二~三日経っても哲は登校しませんでした。
大きな町の病院に一週間ほど入院していたからです。
淳平も、淳平の家族も哲のことが心配で心配でたまりませんでした。
でも、おじいさんだけは別でした。
「だいじょうぶや、すぐ戻ってくる。この自然の中で暮らすことが、
哲くんにとって、何よりだいじなことなんやから…。
あの子が一番よく知っとる」

 
おじいさんの言うとおり、しばらくして哲は村に戻ってきました。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん。もう、だいじょうぶ?」
哲はまた少し痩せたようでした。
「明日から、また学校に行けるよ」
そんなことがあってから、ますます二人は一緒にいることが多くなりました。


「おまえら、きもいぞ~」
「や~い、やせっぽち~」
「うらなりびょうたん、青びょうたん♪」
勇太たちは相変わらずでした。
でも、いじわるをされればされるほど、
二人の友情の絆はますます強く結ばれていきました。


「淳平。ありがとう、田植えとっても楽しかった」
ある日、学校の帰り、哲が唐突に言いました。
「どうしたの? 急に」
「うん。ぼくがここにやって来たのはね…」
ちょっと口ごもりながら、哲は続けました。
「東京からここに引っ越してくるのは、ぼくの夢だったんだ。
どうしても来たかった。それで思いきって両親に頼んだ」
淳平には哲の口調が妙に大人びて聞こえました。


「お母さんの田舎で暮らしたいって…。
二人は少し戸惑っていたけど、あっさり承知してくれた。
お父さんは仕事で、東京を離れられないけど、お母さんと二人で行ってもいいって…」
「ふうん。でも、どうして?」
「うん。ぼくはすごく自然に憧れていた。
毎年、夏休みになるのがとっても楽しみで…。
ここにいると心からホッとするんだ。淳平とも遊べるし…」
「そんなもんかなあ? ぼくは東京に憧れるけど…」
「ホラ! 空気がこんなにおいしい」 
哲は大きく深呼吸しています。
淳平も大きく深呼吸しました。
どう考えても、いつもと変わらない味です。
「それに、空も山もとってもきれい」
空には渡り鳥が列をなして飛んでいました。たぶん、シギでしょう。
淳平は不思議に思いました。
いつも見慣れた風景に、哲がこんなに感激しているなんて…。


「そや、哲。あさっての休み、探検行こか?」
「探検?」
淳平はニヤッと笑って「ぼくにまかしといて」と、胸をドンとたたきました。
哲にもっともっときれいな自然に触れさせてあげたい、
淳平は心の底からそう思うのでした。

 
その日がやって来ました。
「山で遊ぶ」と言って出かけました。
おじいさんの田んぼを通り過ぎて、山のほうへ向かいました。
淳平はさりげなく哲を気づかいながら、歩調をぴったり合わせています。


二人は、思いつくままに、歌を口ずさみました。
「♪やだねったら やだね~♪」
「♪人生はワンツーパンチ 汗かきベソかき歩こうよ~♪」
「♪ナンバーワンにならなくてもいい~ ・・・・・オンリーワン♪」
脈絡もなく、いろんな歌が飛び出しました。

「昨日の夜は、なかなか寝つかれなかった…」
歌がとぎれると、哲が話し出しました。
「何で?」
「ぼく、探検なんて生まれて初めて。いっぺんでいいから、したいと思っていた」
「よかった! ほんとは夏休みに誘うつもりやったんやけど…。なんか、待ちきれんで…」
 
山の中に入っていくと、木陰の風がひんやり涼しさを運んでくれました。
木漏れ日がチラチラ葉っぱの上でダンスをしています。
コナラやヤマモモ、エゴノキの足元に、ウラジロやモウセンゴケ。
ところどころに青いちいさな花が咲いていました。
「ツピッ」首に黒いネクタイをしたシジュウカラが鳴きました。
「ツツピン、ツツピン」楽しそうにさえずっています。
「ピーヒョロ、ピーヒョロ」
他の小鳥たちも鳴いています。何の話をしているのでしょうか。
二人はニッコリ顔を見合わせて笑いました。

 
夏の気配が消えたみたいに、空気がひんやりしてきました。
植物の放つ匂いも濃厚になってきました。
足もとの傾斜はずっと急になり、茂みや下草が地面を覆っています。
淳平は拾った木の枝で下草を払いながら進みました。
哲を気づかっているようです。


しばらく進むと、今度は、岩がごろごろした崖が続きました。
「ファイト! いっぱつ!」
テレビのコマーシャルのように大きな声を出して、淳平は哲に手を差し出しました。
「リポビタンデー!」
哲は淳平の手をしっかり握ってよじ登ります。
「アハハハハハハ…」
汗が心地よく流れます。少し息がきれました。でも、楽しくてワクワクします。

「ちょっと休もうや」
「うん。喉かわいたね」
お茶の冷たさが喉に染み渡ります。
「ずいぶん遠くまで来たね。まだまだ?」
「そうやな、まだ半分くらいかな?」
大きな木に囲まれて、空が小さく見えました。あたりはしんと静まりかえっています。
白い星のような花をつけた木。ヤマボウシかな? 
優しい花を咲かせたエゴノキ。
まぶしく輝やく黄金色の山吹。
他にも哲の知らない木がたくさんありました。
でも、どの木も太陽の光を受けて、葉裏の緑がとっても美しく見えます。


「チチチチチチチチ…」
「ピピピピピピピ…」
「チピー、チピー」
「ヒィヒィクルルル、ポッピリリ」
「チヨチヨ、チヨチヨ」
「ヂッ、ズッ。ヂッ、ズッ」
鳥たちの声がシャワーのように勢いよく降り注いできました。
「フフ、かわいいね。鳥にもいろんな鳴き声があるんだね」
哲は目を細めて、自然の音楽に聴き入っています。
「ほんま! 楽しそうやなあ」
淳平もとっても幸せそうな顔をしています。

 
二人の頭の上を、白い蝶が横切っていきました。
「ほんなら、行こか?」
哲がすっかり元気になったように見えたので、淳平はピョンと飛び起きました。
「うん、行こう!」

 
あたりはすっかり大きな木ばかりになってきました。
空がどんどん遠く小さく見えます。
木陰はひっそり薄暗く感じます。
「カア」遠くでカラスの鳴き声。
「ザワザワ」風に揺れる葉っぱの音。
少し不気味な気がしてきました。
目に見えない何ものかが、山のあちこちに潜んでいるような感じがしました。

 
淳平は急に叫びたくなりました。
「やっほ~!」
「ヤッホ~」
木霊は忠実に応答してくれます。
「さとる~!」
「サトル~」
「これからも仲良くしよう~!」
「…ナカヨクシヨウ~」
「じゅんぺ~!」
「ジュンペ~」 
「もちろんだよ~!」
「モチロンダヨ~」
二人は顔を見合わせてクスクス笑いました。

 
少し行くと、すぐそばに小さな川が流れていました。
「わあ!  気持ち良さそう」
哲がすばやく崖を降りていこうとします。
「ま、待ってや! すべるから気いつけて」
「だいじょうぶだよ」
俊敏に動く哲を見て、淳平は何だかとても嬉しくなりました。

「淳平! 早く早く!」
哲はすでにくつを脱いで、川の中に入ろうとしています。
淳平もあわてて裸足になりました。
「ヒェ~! 冷たい!」
「冷たくて気持ちいい~!」
「行くぞ!」
哲は淳平めがけて水をかけました。
「やったな! お返しや!」
水しぶきが虹色にキラキラ光っています。

「そうだ! 哲。素手で魚つかまえたことあるか?」
「エッ? 素手で?」
「そうや」淳平は少し興奮気味で、
「最高や! あの感触は」と目を輝かせて言いました。
「へえ? ぼくにできるかな?」
「できるできる。まかしとき!」
そう言うと、淳平はせっせと川の中の石を動かし始めました。
哲も淳平の指示に従って、石を集めました。
「よっしゃ! こんなもんでええやろ」


淳平は足をジャブジャブさせて、少し川上に移動しました。
「よっしゃ! 哲! 行くよ。そこで待ち構えて」
「オッケー!」
淳平は前かがみになると、両手と両足を大きく広げ、
それらをジャブジャブさせながら、哲に向かって来ました。
小さな魚や中くらいの魚が石で囲まれた水の中に逃げて来ます。


「ヤッター! 淳平、見て、見て!」
哲の興奮した声があたりいっぱい響きました。
十五センチくらいあるでしょうか。
鱒が哲の手につかまれて、ピチピチはねています。
水しぶきを顔に受けながら、哲は満足そうに笑っています。
「淳平の言ったとおり、この手ごたえ、たまらないね」
「これは立派なもんや。やったね! 哲」
哲は淳平と顔を見合わせて、鱒を川に逃がしてやりました。
「じゃ、交代。今度はぼくが追い込むよ」
淳平も元気にはねる鱒をつかんで大満足。
しばらく二人は魚獲りに夢中でした。

二人はすっかり幼いころに戻っていました。
庭のホースで水をかけあったことや、近くの川で遊んだ思い出が蘇ってきました。
二人の記憶の貯蔵庫に、今日もまた、いくつか大切な宝ものが付け加えられました。
「アハハハハハ…」
「ア~、おもしろ~」


「ねえ、淳平。お腹すいたね」
「うん、もう腹ぺこぺこや。飯にしようぜ!」
ナップサックから、包みを出しながら、
「今日のは超うまいよ」淳平が得意そうに言いました。
「ぼくが作ったんや。玉子焼きも…」
「淳平が? スゴイ!」
「こんなの簡単、簡単。ご飯だって炊けるし、味噌汁だって作れるよ」
「へえ~、淳平って器用なんだね」
「母さんもばあちゃんも、畑仕事で忙しいときは、ぼくがやるんや」
「えらいんだね、淳平は」
「へへ~、そんな褒められるほどのことでもないわ。さあ、食べよ、食べよ」
「いただきま~す!」
「いただきま~す!」 
 
 ちょっといびつな形のおにぎり。
でも、淳平の心がこもっているせいか、とってもおいしいんです。
塩としそだけで漬けた梅干のあっさりした酸っぱさが、さらに食欲を呼びます。
「この玉子焼き、おいしい!」
「ばあちゃんの漬もんもうまいぞ」
食べ盛りの男の子のこと。見る見る間に弁当は空になってしまいました。
川遊びのあとの弁当は特にうまいようです。


「ねえ、淳平」
「なんや?」
「転校してきてから、ズーッと気になってたんだけど…」
哲は小石を川に投げました。
「ポチャン!」
「ポチャン!」
淳平も同じところをめがけて投げました。
「どうして健くんと遊ばないの?」
「べつに…」
淳平はちょっぴり悲しそうな顔をして、
また、「ポチャン!」「ポチャン!」と続けて石をなげました。

 
健は淳平と大の仲良しでした。
去年の夏休み、哲も何度か一緒に遊んだことがあります。
健は勉強がよくできました。健のお母さんは教育熱心でした。
いわゆる教育ママのようです。
「健のやつ、ぼくが先生にほめられたのが気にくわないんや」
淳平はムッとした顔つきをして言いました。
心配そうに見つめる哲を見て、ポツリポツリ話し出しました。

 
去年の秋のことです。
淳平はめずらしく国語も算数も満点をとりました。
それだけでなく、他の科目もめきめき成績が良くなってきたのです。
それまでは、ごく普通の成績で、クラスでも目立たない存在でした。
でも、夏休みに哲と一緒に宿題をしたり、本を読んだりして過ごすうちに、
自分でも知らないうちに勉強に興味を持つようになっていたのです。
哲に感化されたようです。


いろんなことに対して、「何でやろ?」という興味をもつようになり、
「知る」ためには、勉強するのが一番手っ取り早いと思うようになったのです。
そう思うと学校の勉強も楽しくなってきました。
そして、知らず知らずのうちに成績も上がっていったというわけです。

「淳平くんは塾も行ってないのにすごい! みんなも淳平くんを見習って、がんばってください」
先生はみんなの前で、たいそう淳平をほめちぎりました。
一方、健は塾に通い、毎日お母さんにワイワイ言われながら、一生懸命勉強しています。
それなのに、塾も行かない淳平に負けるなんて…。

 
ある日、帰り道、突然、健は投げつけるように、
しかも聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声で言いました。
「何や、……のくせに…」
まさか、健の口から、そんな言葉が出るなんて、淳平には信じられませんでした。
でも、たしかに聞こえたのです。
「……のくせに…」
淳平は呆然としました。
親友の口からそんな言葉が出てくるとは、夢にも思わなかったからです。

 
淳平の住む村では、今ではすっかり差別はなくなっているように見えました。
ですから、淳平も自分がみんなとは違うなんて、
小さいときから全く意識したことはありません。
ときどき兄の雄一郎が「差別されたら、兄ちゃんにゆうんやで! 
そんな卑怯なヤツ、オレがやっつけたる!」と言って、弟を気づかっていましたが…。
健は淳平をいじめるつもりで言ったのではありませんでした。
あまり勉強もしていなかった淳平が、必死に勉強している自分を、
いとも簡単に追い抜いてしまったのが、我慢ならないのでした。
くやしさと嫉妬が、健の溜まりに溜まっていたストレスを爆発させたのかもしれません。


「でも、ぼく、兄ちゃんにはゆわんかった」
「うん……。わかる。ぼくだって、そうするだろうな」
「でも、じいちゃんに聞いたんだ」
「エッ! 何て?」
「どうして差別があるん? どうして人は差別するんや、って」
「それで?」
「うん、じいちゃんは空を見上げながら、悲しそうにゆうた。
『人間ちゅうもんは、悲しい生きもんや。
自分さえよかったらええという欲が、差別を生み、戦争をひき起こす。
ええか? 淳平。
人の痛みがわかるように、神様がいろんな試練を与えてくれたんやで。
その試練っちゅうのは、人によって形が違うんや。
病気やったり、貧乏やったり…』」

「ふうん、神様が与えた試練か…? わかるような気がするな」
「それから、こんなこともゆうとった。
『なんで差別が生まれたんか、わしに聞くより、自分で勉強してみい。
まず、知ることが大事や。
それに健くんもほんまのこと知ったら、自分のゆうたことが、
きっと恥ずかしくなるやろ』」

 
それから、淳平は差別に関する本を、図書館で何冊か借りて読みました。
「なんや、江戸時代の支配者が、自分の権力を守るために、
根も葉もない身分制度を作ったんか。
自分らより、まだ身分の低い貧しい奴らがいる。そう思わせて、
民衆の目を政治に向けさせないように利用したんや」

差別のことを理解した淳平は、すごく腹が立ちました。
気持ちは複雑でした。そんな矛盾に、人は、なぜいつまでもこだわるんだろう。
なぜいつまでも差別がなくならないのか、不思議でなりませんでした。
 

しばらくたって、健は悪びれたようすで、淳平に謝りました。
淳平は「ええよ、気にしてない」と言って許しました。
が、もとのように仲良く遊ぶことはなくなりました。
淳平の心の傷はそう簡単には癒されなかったのです。
信じていたものに裏切られたという、
理屈ではわりきれない妙なしこりのようなものができてしまっていたからです。
それから、健はいつのまにか勇太たちの仲間に加わるようになりました。
でも、なぜかそのときから、勇太も健も淳平をいじめることはなくなりました。


「淳平もいろいろあったんだ」
哲は慰めるように言いました。
「哲に話して、なんかスーッとしたわ」
悩みを打ち明けて、淳平はほっこりしました。
哲を見てニッコリ微笑みました。哲も淳平に微笑み返しました。
でも、少し様子が変です。
「哲、顔色がようないで。しんどいんとちがう?」
「ちょっと、がんばりすぎたかな? 少し休んだら楽になると思う」
「そうやな、ぼくも疲れた。あの木陰で昼寝しょうや」
淳平は、まだまだ疲れてなんかいませんでした。
が、哲に気を使わせてはいけないと思い、そう言いました。

 
二人はほどよい木の枝を選んで、枕にしました。
木陰に並んで寝転びました。
やっぱり葉裏が美しくそよいでいます。
雲が気持ち良さそうに流れています。
あの雲に乗れば、遠い遠いかなたまで二人を運んで行ってくれそうな気がしました。
そのうち、猛烈な眠気が二人を襲いました。



つづく・・・                      まこりんさんの日記より



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